染め屋が染める色付き寒天
地元の諏訪地域で、「赤(あか)」「青(あお)」と呼ばれる角寒天があります。できあがった白い角寒天に、「染め屋」と呼ばれる専門の職人が色付けしたもので、赤はその通り赤色ですが、青はどちらかというと緑色をしています。その色の濃厚さに驚く人もいるかもしれませんが、赤や緑の寒天寄せは、諏訪地域の冠婚葬祭には必ず登場する郷土食といって過言でないものなのです。慶事には赤い寒天寄せ、弔事には青い寒天寄せが供されます。いずれの場合も、さいの目に切った豆腐を入れることが多いです。
青と赤。2本入りでいずれも400円(税込)
御柱祭のおもてなしの定番中の定番
色付きの寒天寄せは、とくに諏訪地域の一大行事である御柱祭の際のもてなし料理としても、その筆頭にあげられるほどです。山から切り出した御柱を曳く「御柱街道」の沿道の家々は、巡行する氏子らが休憩に立ち寄る「お宿」とも呼ばれていて、氏子のみなさんのほか、観覧に訪れたお客様にお酒や食事を振る舞うそのなかに、赤寒天の天寄せが登場するのです。3日続く御柱祭の里曳きの間、日持ちがしてお裾分けにも便利。かつて貴重だった砂糖をたっぷり入れるところにも、おもてなしの心が込められているのかもしれません。
豆腐を入れた諏訪地域の郷土料理の天寄せ
赤寒天と青寒天は煮溶かして固めるだけで色鮮やかに仕上がります
はじまりは九州? 四国?
この「赤」と「青」、実は諏訪地域だけの食文化というわけではなく、わたしたちの出荷先のなかで最も多いのは九州。九州地方や四国地方で古くから慶事の際に用いられたようです。九州・鹿児島で有名な氷菓「白熊」の元祖とも言われる「天文館むじゃき」の白熊にも、(角寒天を用いているかは定かではありませんが)赤と青の寒天の角切りが乗っています。新潟県では慶弔の区別なく、おせちなどに粉寒天でつくられた赤と青の寒天が一度に盛り込まれるようです。まるでクリスマス気分。なお、諏訪地域では、赤・青の角寒天を用いず、各家庭で白い角寒天を煮溶かして食用色素を垂らし、好みの濃度に着色することも多いです。
天文館むじゃきの「白熊」
新潟県で多く流通する色寒天。色てんなどとも呼ばれます
さて、全国各地の寒天の話に広がってきましたが、ほかにも糸寒天の産地として知られる岐阜県のニッキ寒天や、石川県のお節料理でたまごをとじたベロベロ、なんでも寒天で固める秋田県など、赤・青に限らず地方の寒天話はまだまだ出てきそうです。このお話は、また別のコラムで…。
秋田県のスーパーのお惣菜売り場のひとこま。これすべてが寒天料理というから驚きます
参考文献:
『地域文化 No.99 2011冬号』(「風土が育む郷土の食」調査/vol.6天寄せ/公益財団法人八十二文化財団、2011)